モグラは、よく土竜と書くが「竜」の旧字体は「龍」なので、土龍でもある。 ただ、あのモグラと華麗で高貴なイメージの龍とは中々結び付かない。それは、土を掘ったトンネルの変幻自在な形が龍の姿の様に見えるからという説もあるらしいけれども、そもそも中国の土竜はミミズを指すというから真偽の程は不明である。
そんな招かざる客のモグラが唐突に我が家にやってきたのは、夏も終わろうとしている8月末の頃である。ある朝、庭の片隅にモグラ塚を見つけたのだが、それがこんなに手こずることになるとは夢にも思わなかった。
猫の額以下の狭い庭であっても、樹木のスペースと芝生と日当たりの悪い所は苔を育てていて、その苔をモコモコというよりボコボコにされたのを目のあたりにした陽の落ちた夕暮れ時には、やり場のない怒りとともに更に悪さは続くのだろうと不愉快で嫌な予感を覚えた。
そして、芝生にも侵入される恐れが十分となったからには追い出すしかないと覚悟を決めた。
生真面目で甘く狭い理由からではないが、殺生するつもりはないし普段でも余程でなければ農薬は使わないことにしているので出来ることは限られている。
ペットボトルによる風車や、電気による振動とか音波も直ぐ慣れてしまうらしい。そこで、光にも反応しないほど目が見えない代わりに嗅覚は非常に鋭いというから、それに的を絞った。
正露丸やハッカ油は好きではないだろうが効果は一時的であった。唐辛子もトンネルの中に1kg以上入れてみたが、ダメージを与えているかさえ覚束ない。それは、予想以上にしぶといというのが実感であり、慣れによるものかより強情になってきている気もする。
まだまだ諦めたわけではないが、人が好きで育てている苔や芝生は美観の問題である。考えてみるに我が家においてはモグラによる最大の被害はトンネルによる植物の根の乾燥害だろう。
そんな時見つけた一つの見識。
作家 黒木安馬氏の〔農業経営者@2013年5月号〕の「21世紀だ!−人生・農業リセット再出発147」で、PDFより抜粋し読みやすさを考慮して一部改行を加えています。
『・・・そこで、ふと考えた−こんなことを毎日やっているとミミズが先にいなくなってしまうのでは?
モグラが出るのは餌のミミズが豊富だからこそであり、庭に放し飼いにしている数十羽の鶏の糞のお陰で有機質に富んだ肥沃な大地になってミミズも増え、芝生が青々と育ち、モグラが喜ぶ。とすれば『進化論』を書いたダーウィンが言うように、ミミズがいなかったら地球は滅ぶだろう!の通り、土壌が豊かな証拠である。
ヨトウムシやコガネムシの幼虫をどんどん捕食し、どうしようもないやせた土地には棲まないモグラ。
踏み固められて窒息しそうな大地を耕して新鮮な空気を送り込んでくれていると受け止めれば、魔性どころか、天の川からやってきた救世主の住民かもしれない。
宇宙船地球号は、人間だけのものではない。万物の命の権利を考えれば、共生こそが平和。
良い日、悪い日、それは全部、自分の心が作り出す。思考回路を変えてあるがままの大自然に任せ、モグラと戯れながら気楽に生きるのもまた贅沢な人生か。』
そうは言っても、これからも試行錯誤を続けるだろう。そうして、画期的な方法は多分見つからないだろうし、拘りと達観のせめぎ合いの行方は知らない。