2015年09月27日

 スズキの誠実あるいは慧眼と矜恃。

 
S技術者「このディーゼルは摩訶不思議な挙動をする怪しいエンジンで真っ当ではないと考えます」
S担当役員「具体的に話してみたまえ」
S技術者「元々、あまり素性は良くないのですが、ベンチテストでは規制値をクリアします。しかし、テストパターンではない我が社の独自パターンでは途端にデータが悪化します。実際の走行試験値は最悪で平均すると25倍以上のNOxを発生しています」
S役員「どういう理屈だ」
S技術者「現時点では推測です。それは排ガス試験状態を検出してそのパターンの時には排ガス浄化装置をフルに作動させるのでクリーンなのですが、普段は排気ガスレベルよりも燃費と馬力と浄化装置の寿命を優先するようなソフトが組み込まれている可能性も捨て切れません」
S役員「それではまるで詐欺ではないか。まさか質実剛健の国の一流メーカーがそんな不正をしているとは考えられないな。もっと詳しく調査してくれ。一応社長には報告しておくが」


S役員「どうも状況が芳しくありません。技術によるとベンチテストデータと信頼性や耐久性以外は我が社の試作エンジンの方が勝っているそうです」
S社長「なに!。いや俺も何か怪しいと思っていたんだ。相手は第一に誠実じゃない。その上に正義とは程遠い。それ以上に胡散臭い。もしかしたら我々は大きな勘違いをしていたのかも知れないな。イメージ操作にやられていたのはユーザーや評論家以上に俺かもしれない」
S役員「いや、まだ確定したわけではないのですが」
S社長「環境技術は出し惜しみする癖にインド、印度と五月蠅くてたまらん。いやここまで企業風土が違うと離婚も考えなければならなくなるな。大至急確実な尻尾を捕まえてくれ」


S技術者「間違いありません。残念ながら真にクリーンなディーゼルは今ままでも今もこの世に存在しません。まやかしの技術であり、こんなからくりを仕組んだらあの燃費も高出力も可能なのは当然です。我が社のエンブレムを付けて販売できる代物ではありません。たとえ提携先であっても購入すればいつの日か不正が暴かれた時には大きなダメージを受け会社の存続さえも危うくなります」
S役員「参ったな。それでは提携解消まで行くしかないだろう。これから別の意味で困難な道となるが、何世界に冠たるメーカーでさえ中身はこの程度の技術と倫理感だと学習できたのだから丸っきり無駄ではなかったと考えよう。なによりも大事なのは我が社の矜恃を守り抜くことだ」
S技術者「そもそもディーゼルが環境と相性が良くないのは周知の事実であり、あれは白昼夢です。しばらくはハイブリッドが主力でそれは軽にも有効ですし私たち独自のシステムにも目途が立ちつつあります。決して開発競争には負けません」
S役員「ありがとう。当分は先生がいなくなるが今後は我々が先生となる意気込みでよろしく頼む」


S社長「そうか。分かった。俺も卑怯なまねまでして儲けようとは思わん。そんな会社とぐだぐだ関わっていたら我が社も腐ってしまう。契約があるから大きな代償が待っているだろうが仕方がない。そんなに心配するな、お前がそんなじゃ皆も不安になるぞ。後は俺に任せておけ。直ぐに直ぐとはいかんが腹は据えた。なに大丈夫だ、大切な社員を路頭に迷わせるわけにはいかないだろう。ほら、昔から正直の頭に神宿ると言うじゃないか」
S役員「よろしくお願いします。無念ですが私も座右の銘『善悪の報いは影の形に随うが如し』を改めて心に刻みます」



夢から覚めたら秋分も過ぎた早朝は肌寒く心は尚冷えていた。
 

posted by 工房藤棚 at 21:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 独り言

2015年09月13日

φ1.000mm鋼球の圧入と低重心のインパクト精密コマ NEXT-CHRONUS(クロノス)。

 
 CHRONUSとは「時間の神」の意で、chronometer(クロノメーター)やsynchronize(シンクロナイズ・同調、同期)もクロノスに由来するという。メーカーのネクストは回転時間への自信から名付けたと発表している。

精密コマ
 形状で特徴的なのは、外周に質量を寄せ極端に重心を低くした特異な姿であり直径は19.9mmで質量は21g。ちなみにウラヌスは18.9mm14gで、重厚であることが長時間より安定的に回る結果に繋がっていることは素直な驚きである。勿論軸のローレット加工もウラヌス同様施されている。

NEXT
 ステンレス(SUS303)丸棒から一体削り出した本体は、センター軸に対する振れを数ミクロン以下に抑えたとされる。そのボリュームのある切削した金属独特の質感は格別であり、全体から醸し出す丁寧で緻密であり精密な加減は言葉では尽くせぬ魅力を秘めている。

 CHRONUS
 他の精密コマには無い大きな目玉が、回転を支える先端部の処理であり、φ1.000mmの高精密の焼入れ処理されたステンレス鋼(SUS440C)球が圧入されている。それにより、硬度は2倍となり耐久性が大幅に向上しているという。当然平坦性や真円度も段違いであろう。

丸棒削り出し
 NEXTの精密コマを知ったのは最近で、最初に購入したのは同じステンレス丸棒削り出しでも正統的なウラヌスである。その時クロノスも知らなかったわけでは無い。しかし、クロノスより価格の安いウラヌスを選択したのは始めと同時に終わりになるだろうという予感があったからである。

URANUSUとCHRONUS1
 ウラヌスには不思議な魅力があった。童心に返る懐かしさとは違うと思う。回転時間も満足するものであり、メーカー確認時間の4分は余裕であった。個体差は当然あるだろうが、多分当たりだったのだろう。公式記録にも迫る勢いのある姿は美しかった。シンプルな機能美である。

URANUSUとCHRONUS2
 更なるステージへ。それは当然の欲求であった。そしてクロノスは、その要求を難なく乗り越えた。より永く、より静かに、より無駄なく、より輝き、より鮮やかに。

ステンレス鋼球圧入
 コマを回し始めた時の動きを「みそすり運動」と言うらしい。正式には「歳差」。それを経ると不動である。回っているが不動不振。一瞬一刻が永遠の流れに溶け込む不可思議時空である。

ネクスト
 現在のクロノスの最高回転記録はなんと9分54秒である。新たな記録を打ち立てるには10分近く回さなければならないのである。その前のタイムは8分16秒なので、挑戦する意欲が湧くものであったが流石のクロノスでも10分のハードルは高い。工夫と精進と継続で届くものなのかは神のみぞ知るであろう。

岡谷
 鋼球で高級なコマを生み出すNEXTのある信州の岡谷市は、東洋のスイスと呼ばれるように時計などの精密機械加工が盛んで、その技術には確かな背骨と気骨が根付いていたのである。
 

posted by 工房藤棚 at 15:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | コマ・独楽

2015年09月02日

 極まる。

 
 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会事務総長によると責任問題は「三者三様」、「誰が悪かったというものではない」。

 「佐野氏は取り下げを申し出たことで、責任を果たした」。
 「選定委員会は適切な判断を示した」。
 組織委員会は「新デザインを早く決めることが我々の責任」。
 言ってはいないが(本音は)「無責任に騒いだ一般国民だ」。

 五輪エンブレム撤回の事件で一番理解できなかったことは、シンプルなデザインでは似たものが見つかるのは仕方がないという意見。
 けれども撤回したデザインで、裁判を起こされたベルギーの劇場の他には今回大きな威力を発揮したネットにおいて指摘されたのは、言われれば気が付くスペインのものだけ。
 原案として示されたものでは、初めに話題になった時計メーカーの似ていると言われれば似ていないこともないロゴと、致命傷となった盗用元(と考えられる)の二つだけである。
 それよりなにより、単純な要素のみでデザインすることが必要条件ではなかったし、ましてや世界の言語は英語だけではない。

 武藤敏郎事務総長は、大蔵・財務次官、日本銀行副総裁などを歴任したという。絶対に尻尾を掴ませないまま煙に巻く答弁は官僚の鏡であり手本なんだろう。だが、それは正義や気骨や誇り・矜恃とか明朗や誠実とは対極の姿勢であり、この緩み様が現在の日本のトップの程度を映しているようで切ない。
 

posted by 工房藤棚 at 22:14 | Comment(0) | TrackBack(0) | 独り言
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