2015年11月08日

精密コマNEXT−クロノスに10分の壁は存在しなかった。

 
 信州の精密の町こと岡谷市の新世代経営者研究会NEXTの精密コマCHRONUS(クロノス)を手にしたのは9月の初めであった。

クロノスとウラヌス
 2〜3年前から一部ではφ20mm以下の金属コマが話題になっていたようだが全く知らず、たまたまAmazonで精密コマを見つけてNEXT−URANUS(ウラヌス)を購入したのが夏の盛りの8月である。

精密コマNEXT

 ネクストの精密コマSHOPでは「コマ記録に挑戦!」という企画を行っていて、クロノスの今までの公式記録はなんと9分54秒である。NEXTによると「当社基準の条件下で6分以上回ることを確認して出荷しています」の通り、6分程度回すのは難しい話ではない。

 実は二代目公式記録は驚くべきもので、初代記録は8分16秒でありそれは2013年9月に達成されている。その8分が意外とハードルが高くて、コマを回す台選びや、ある程度回す腕を上げないとなかなか届かない。

 けれども8分を越えても新記録は遙か遠い世界である。あと2分であるが最後はフラフラする8分から、10分にたどり着く為には半端でない工夫や鍛錬や精進や上達が必要なことは誰でも容易に察する。そこで諦める人、その必要を感じない人や、そこに価値や意味を見出さない人が大多数であろう。

 しかし、クロノスとは妙に相性が良かった。自分には10分を達成できる予感があった。色々と調べたり試したり悩んだり遊んだり楽しんだりする過程が必ず二桁に続く道となる自信があった。根拠無き自信でも挑戦することを面白がる意欲があった。小さくても存在感溢れるクロノスにとって10分の壁は決して厚くないと信じて、その壁を打ち破る男になると決意を新たにした。

NEXT CHRONUS
 初めて8分を越えたコマ台はテフロン加工のフライパンである。最初は深い考えもなく100円均一で買ってきたガラスの皿で試行錯誤を続けていた。磨いたり荒らしたり平面性を高めたり色々試したが8分は思いの外難しい。そして、やはり摩擦係数は低い方が効果的であることを覚えフッ素加工にたどり着いたのだった。

 コマ台が重要なことはよく理解したので、その選択である。日々の調理道具のフライパンを使うわけにはいかないのでAmazonでテフロン加工のパイ皿18cmを購入してみたがあまり芳しくはなかった。皿自体の厚みと大きさが足りないのでこれ以上望むのは無理と判断した。

 調べてみるとセラミックに可能性があることが分かった。セラミックなら陶磁器である。早速台所で探すと白くて浅くて直径約22cmの皿が丁度良さそうである。試して驚いた。8分は後半の記録が出たのである。どうも肝心なのは充分な大きさと厚さと適当な深さである。大きさは始めの「みそすり運動」が自由にできること。厚さは土台が微動しないこと。深さは回す時に意識の上でも邪魔にならないこと。そして周辺の少しの盛り上がりが適度に中央に収まるようはたらくこと。これらが作用して良い結果に繋がるのだろう。

 普通の皿がいいのならファインセラミック皿はどうか。8分後半ではあと1分以上タイムを伸ばさなければならない。あまり期待できない気がしたが試さなければ分からないし気持ちが治まらない。なかなか希望に沿うものが見つからなかったけれども20cmの高強度磁器を買ってみた。思いの外表面が粘る感じで可もなし不可でもなし程度である。それから色々な皿を試したが、コマを回した跡に小さく傷つくものが結構ある。最初に見つけた物は全く無傷であり、それが現在も続いていて一番のお気に入りである。

 タイムを伸ばすには小さな工夫の積み重ねが必要であり、それにはよく滑り抵抗が少ないことが有効であろう。動きを良くするといえば直ぐ思いつくのが「CRC5ー56」である。期待を込めて一吹き。わずかな量のつもりであったが逆に抵抗剤である。何でも「過ぎたるは猶及ばざるが如し」である。軽く拭き取っても微妙である。もう8分を行ったり来たりしているので、回し方のバラツキで効果を実感することが困難なのである。

金属コマ Chronus
 コマ台も重要であるが、コマ本体に摩擦を低減する処理を施したら効果的であろう。二代目記録保持者はDLCコーティングを施したという。それは最終手段としてフッ素樹脂加工も候補として資格充分と判断した。しかし、個人で一品その上遊びのコマを処理してくれる会社はなかなかない。ようやく受けてくれそうな会社にメールで問い合わせると「テフロンコートは硬度が柔らかくお使いの用途に適さないのではないかと思います。今回の案件は弊社での加工は難しいです」と返事が戻ってきたのは5日後であった。

 プロによる加工は諦めたが、フッ素樹脂100%の乾燥皮膜 離型・潤滑剤をネットで見つけた。「スプレーするだけで金属などに密着する」に惹かれた。スプレーならコマ本体とコマ台にも使用すれば一石二鳥である。テフロン加工のフライパンにも好印象がある。首を長くしてモノタロウからの到着を待ちわびたが結果は惨敗である。とにかく柔らかくコマ回したら筋だらけである。負荷に合っていないのだろうが、これでは効果を発揮できる状況が想像できない。残念ながら今回の挑戦で(価値的に)一番の高い買い物であった。

 なんだかんだで9分の壁も突破することができる時もある程度に腕も上がってきたし、コマ台も白い皿が板に付いてきた。けれども足りない。これからあと1分伸ばすのは容易ではない。そこで思い出したのがTBSテレビの「がっちりマンデー!!」で放送された奇跡の潤滑剤「超極圧潤滑剤LSベルハンマー」。そのホームページの誇大広告かと疑う程の市販潤滑剤とベルハンマーの潤滑面のイメージ図に期待は大きく膨らんだ。

 届いた希望の星を動きが重くなっていた玄関の引き戸の戸車にスプレーしたら吃驚仰天した。画期的と表現するのがふさわしい効果である。いつもの調子で開け閉めすると端に激突するほどである。その効果は時間が経っても顕著で現在も軽快でしっとりとした動きは優雅である。ただコマ記録にとってどれほど有効かは判断が難しい。けれども、それが貢献度2%であり時間にして約10秒の+αであると感じている。ただし、極微量をスプレーし絶妙に拭き取る細心の案配が必要だろう。

精密コマ クロノス
 右手の人差し指にタコができる勢いと思いつくことは何度も試してやり直しの連続で辿り着いた9分20秒強。それもただ一度のみ。このままでは埒が明かないし意欲も薄れると限界を悟り、残された有力手段であるコマ本体の表面処理を依頼することにした。個人の依頼も歓迎している頼もしい会社も見つけた。エヌ・イー有限会社WPC事業部のWPCとDLCのダブル処理である。

 「WPC処理」とは株式会社不二製作所等の登録商標であり、W=Wonder(ワンダー):驚くべき、不思議な、P=Process(プロセス):手順、方法、C=Craft(クラフト):技巧、特殊な技術の略で、金属の表面に無数の極小の金属などの粒を高速噴射することで金属の性能を改善させる技術。また、「DLC処理」とはD=Diamond(ダイヤモンド)、L=Like(ライク):似ている、同様な、C=Carbon(カーボン):炭素の略で、主に炭素と水素で構成されるナノレベルの薄膜を金属表面にコーティングする技術である。自動車のエンジン部品等にチューンアップを目的にも施されていて、それは現代最高レベルの耐磨耗性、高強度、低摩擦係数を実現する夢のコラボレーション技術と謳われている。特に期待したのはずば抜けた摩擦係数の低さである。

 処理金額はエンジンのバルブのステムのみの処理で3,250円なので大体見当はついた。善は急げで「ご依頼(即処理希望)」でコマを送った。実際は処理代のみでクロノスをもう一個買える以上の金額であり、代引料と送料を加えると清水の舞台から飛び降りる覚悟の金額となったが乗りかかった船である。後戻りはない。

コマ WPC+DLC
 約10日振りに戻ってきたクロノスは、ローレット加工部以外は深く渋い光沢の漆黒色に変身していた。恐る恐る回してみると1回目から余裕の8分40秒台である。これは幸先が良い。そうして、2日後手応え充分で会心のチャレンジは勢い鋭く10分の壁をスルリと通り抜けた。その瞬間は思いの外冷静で「そうなんだよな」としか感じなかった。その夜の深い眠りは静かな達成感と言葉では言い表せない安堵がもたらしたものだろうか。

 記録は順調に延び10分18秒を達成できたので動画を撮ることにした。新記録を認定してもらう為にはYouTubeにアップしなければならない。それは両方共初めての体験である。けれども、常に10分を回せるわけではなく、大体は手応えがあっても9分40秒程度である。構図やフォーカスや音声まで満足できないことばかりであるが、それよりも回転時間が問題外であった。

 10分は論外で8分も回らなくなった。絶不調である。9分は夢のまた夢であり、力んでいるのは理解できるのだけれども力を抜くと回転も弱くなる。人指し指の先端にコマの回し過ぎによる痛みがあり、それを庇って回し方も不自然になっているのだろうが、それ以上に気持ちの問題なんだろう。脆いものである。

 「押しても駄目なら引いてみろ」ではないが、右がダメなら左があるじゃないか。発想の転換で一度も回したことがない左手で試すと延々と回っている。次に時間を計ると久しぶりの9分台の数字に再会できた。コマは反時計回りの方が有利なのかと調べたが関係無いようである。左手による挑戦は順調に進み念願の10分越えを記録できた。それがコレ!。流石に動画に残せた瞬間はシミジミと嬉しさが湧いてきた。そう、NEXTーCHRONUSに10分の壁は存在しなかったと証明できたのである。そして、感触では今の方法で10分30秒程度までは記録を延ばすことができそうな気がする。

 クロノスを長く回すコツは、あまり力まずに水平垂直を意識して、とにかく鋭い回転を与えることだろう。「みそすり運動」がおさまり回っているのに静止しているような状態は微動だせずの表現がふさわしい貫禄で、その姿と時間は不思議な安らぎに包まれ心まで癒されるのである。

Next-Chronus
 長々と挑戦記を綴ってきて今思うことは、確かに2015年11月現在でのクロノスの最長記録であるのは間違いないけれども、決して安くはないDLCコーティング処理まで踏み込む酔狂者は極少数だろう。それでは同じ土俵でないと違和感を持つ人もいるだろう。様々な工夫をすることが進歩の源なのだから、それを縛ってしまうのは残念だし必要ないとは考える。ところがクロノスの特徴の一つに先端がステンレス鋼球の圧入がある。回転時間だけを考えたら金属表面処理は先端だけで十分である。そこで、あらかじめコーティング処理した鋼球を使用するクロノス マークUはどうだろう。値段は上がるがそれ以上に性能も上がりメーカー確認回転時間7分が可能となるだろう。強いこと、コマにとっては長く回ることは正義であり、最強を目指すことは自然であり当然の欲求である。

 夏休みが終わり子供たちが学校に通う姿が戻った頃始まったクロノスのコマ記録の挑戦も庭の柿の木の葉も全て落ちてしまった晩秋に新記録達成で一区切りついた。それは一抹の寂しさも連れてきたが張りのある充実した時間であった。

 何故コマにそれまで情熱を注げるのかと疑問に思う人も少なくないだろう。それには「たかがコマされどコマ」と答えたい。そうだ「今も元気だから」と答えよう。


posted by 工房藤棚 at 10:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | コマ・独楽
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