キャストパズルの材質は、基本的に亜鉛合金である。だから、固く、硬い。ただ、全てが硬いかというと微妙なこともある。
ただ、手触りや、仕上げや、重量感や、質感は色々なのだが、金属が持つ独特の存在感は、どのCastPuzzleも備えている。
「CAST ENIGMA(エニグマ)」が、がま口のように捻る別解が話題となったことがある。今の人は、がま口と言ってもピンとこないかも知れないが、金属の弾性を利用し捻って開く部分を固定する小銭入れである。
確かに、ちょっと違う気はしたが、許される範囲だと思うし、本筋とは関係ないから余り拘る必要があるとは思わなかった。
エニグマのように、金属といえどもそれなりの太さがないと、剛性が高くないことにより発生する問題である。しかし、硬ければ硬い程よいわけではないし、程度問題である。
硬くないといえば、「CAST HELIX(ヘリックス)」のリングも際どかった。パズルとして許される最低限のスペースを利用するので、弾性のある鉄のリングとの兼ね合いを見極めるのが難しい。
Akio Yamamoto氏の作品の常で、最後は僅かな角度の捻(ひね)りや、捻(ねじ)りにより正解を探っていくのだが、いつもいつでも理想的な操作とはならない。だから、それが無茶な挑戦なのかを見極めるのは各自の感性となり、その各々の感性が物議を醸す。
ただ、不用意に余裕を持たせると別解が発生しパズルとして成り立たなくなる恐れがあるから、作者の苦労に終りはないのだろう。
「CAST VORTEX(ヴォルテックス)」の最後の留めや、「CAST COIL(コイル)」の最終の納まりや、「CAST COASTER(コースター)」の組合せの妙は、隙間の遊びを利用しているが、それなりの力が必要で、ある程度固くないと固定されていないから、その精度は難しいのだろう。
そうして、いつでも硬くできると考えていると、それは大きな誤解だと悟る時、男と女はどんな重い想いをするのだろう。
金属なのに柔らかな「CAST BAROQ(バロック)」は、AkioYamamoto氏の作品の独特の世界が健在である。
柔らかいといっても、当然グニャグニャするわけではなく、優しく不思議な曲線であり、大波のような自然なリズムである。それは、パズルでありながら、アクセサリーを思わせるお洒落さ。
ゲームレベルは4で、同じ作者の「CAST RADIX(ラディックス)」と同じような黄銅色で影の部分は黒色の仕上げである。また、小振りなのが丁度良く、愛着の持てるサイズというものがあるのだと知り、やはり相性が一番だと納得する。
いつ触っても、外すことも、戻すことも、不思議な感覚に誘われるパズルで、あっという間にできることも、延々と堂々巡りすることもある。二次元を越えて、三次元の世界の奇妙さで、その妖しい曲線が人を惑わす。
ただ、このパズルは論理的に考えるものではなく、気が向いた時に手のひらで弄(もてあそ)ぶものだと思っているので、それはそれで逆に良いことであろう。
入れたり抜いたりの繰り返しと、外れる瞬間の気持ちよさと、その時の造形美は特筆ものである。その交わる歓びは、大人の悦楽の時間であり、それだけで数多くのCastPuzzleの中でも独特の存在感を示す。
簡単ではないが難しくもなく、その仕掛けもキャストパズルらしく上質で飽きのこないものである。
だから、どんな人にも安心して勧めることができる佳品であり、多くの人が手にすることにより、CastPuzzleの金属製ゆえの魅力を十分に味わって欲しいと思うし、その価値を秘めている。
【HUZZLE・CastPuzzleの最新記事】
これまでに工房 藤棚様の 数々の名文を堪能させてもらっておりましたが、
一番共感できて酔い痴れることのできる
このバロック評を選んで※します。
友達のアメリカ人に「わが意を得たり」てどう言うの?と訊くと、
I can't say so,more.と教えてくれましたが、ココで使うフレーズかなあと思ったりします。ではまた。
自分でも、赤の他人のブログにコメントを寄せることなんてないので、大変励みになります。
キャスト バロックの記事だけは、(少し危うくとも)お小ちゃまには書けない、大人へのcastpuzzleの誘いになりうるものかなと自負していたので余計嬉しく思います。
最近は、キャストパズルの話題も少なく、心寂しい想いをしていますが、意外とこれが永く続く秘訣なのかもしれません。
継続することに意義があると考えていますので、また是非お立ち寄り下さるようお願いいたします。