2010年03月03日

妻の肖像@徳岡孝夫。

 
 2009年6月号で休刊となった、月刊誌「諸君!」の巻頭を飾った名物コラム「紳士と淑女」の筆者であったと覆面を脱いだのは、徳岡孝夫氏であった。

 その傑作「妻の肖像」が、文春文庫として新たになったのも昨年のことで大分時間が経った。同書の解説―愛と転生の物語@石井英夫氏はこう評価した。

 『いうならば『諸君!』は尾カシラつきの美味なるタイを売り物にしたオピニオン誌だった。徳岡孝夫と山本夏彦と。二人はともに卓抜なる風刺と比喩と諧謔によって世の見せかけの正義にかみつき、おためごかしの偽善の皮を引っ剥がした。その山本夏彦亡き現代の日本で、希代の名文家は誰かと問われれば、ためらうことなく一人の名を挙げることができる。徳岡孝夫を措いていないからだ。 』

白花1


 それは『辻に立って己が女房の惚気を叫ぶバカが、どこの世にいるだろう。』をも言葉を失わせる切なさである。

 特に、第一部の「喪妻記」が出色である。

 『死を知らずして、人はどうして「いのちの尊さ」を知り得よう。』

塔


 それから、第二部の「妻の肖像」に続くのだが、それは淡々とした回想録となる。

参道


 『常夜だというあの世へ行って、次も人間に生まれ変わるとは限らない。修羅の道に落ちるか、それとも畜生道に入るのか。人知の及ぶところではないから私は考えない。』

石段


 『…。だが、いまさら悔いるのはよそう。詮ない悔恨、無駄な欲望、何よりも無益な自己憐憫ほど幸福を妨げるものはない。アランの『幸福論』に、そう書いてあるではないか。フランス人も、人生の薤露のようなはかなさを悟ったのだろう。』

白花2


 そして、最終章「妻の肖像」。
 “愛しき人を持つすべての人に、本書を捧げます。”
 これをもって、そのメッセージに納得するだろう。
  

posted by 工房藤棚 at 21:41 | Comment(0) | TrackBack(0) | 山本夏彦

2009年05月03日

ものみな終わりがある。雑誌「諸君!」休刊。

 文藝春秋の、日本を元気にするオピニオン雑誌「諸君!」が休刊することになって、5月1日発売の6月号で最後である。

 昨日、書店に行ったら、もう2冊しか置いてなかった。市内で一番の大型店がこの状態である。欲しい人は急がないと入手できないかもしれない。

 最終号は特別企画で、「日本への遺言」、「『諸君!』と私」、「<8人ラスト大座談会>諸君!これだけは言っておく」など本当にこれで最後なんだなと感慨深いものがある。

 そして「思想家列伝 輝ける論壇の巨星たち」では、当然ながら山本夏彦翁もその錚々たるメンバーの一人である。
 その副題は「風刺と諧謔を秘めた含羞の慈顔、怖い温顔」で石井英夫氏の視線が暖かい。

 書評「本の広場」でも、山本夏彦翁の最新刊「浮き世のことは笑うよりほかなし」が紹介されている。
 『山本自身「室内」の編集者であり、経営者で、この人が世に恐れられたのは、実業と文化を二つながら自己の立脚点にして<日常の些事から天下国家の大事>までを論じたところにあるのだとよくわかった。実務と文化と二つながら持ったのは、その昔の<武士>である。』
 流石の書評で、それは演出家 鴨下信一氏の手になるものである。

破壊とエコ。

 「諸君!」名物で巻頭を飾る「紳士と淑女」も、「ベリー・ベスト・オブ紳士と淑女1980ー2009」で『森羅万象に限りない好奇心を向けた三十年の歩みのなかから、各時代きわめつきの傑作を精選』したもので、堂々の50頁。

 最後に「読者へ」と「紳士と淑女」子からの最後のメッセージが掲載されている。それによると闘病中であるようで、無理をなさらずに早いご回復をお祈りします。

 そして、匿名であった「紳士と淑女」子の正体は最後の最後に明かされたのだが、それは山本夏彦翁と非常に関係の深い人であり、納得できるものであった。

 普通、雑誌の休刊とは廃刊を意味すると言われているが、公式には休刊なのだから、鮮やかな復刊を待ちたい。

 「編集後記」の最後に
 『 いざ、さらば諸君!また会う日まで−』


posted by 工房藤棚 at 12:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | 山本夏彦

2009年04月14日

山本夏彦翁の新刊書「浮き世のことは笑うよりほかなし」。

 山本夏彦翁の新しい本は、もう出ないだろうと諦めていたのだが、意外にもそれが最近出版された。

 それは「浮き世のことは笑うよりほかなし」。講談社からの出版である。新潮社でもなければ、文藝春秋からでもないのが、微妙である。

 その前に『夏彦・七平の「十八番づくし」』という両山本氏による対談集が出ているのだが、これは復刻版。何とほぼ26年前の本を復刻したものであった。

 本書の内容は、山本夏彦翁が編集者兼発行人である工作社刊行のインテリア月刊誌「室内」に掲載された対談「人物登場」で、山本夏彦翁が聞き手を務めたものから十七編を選んだもの。

 もう、こういう企画しかないのである。けれども、このアイデアがよく出版までこぎつけたものだと感心した。

 その内容。どこまで紹介するのが、まだ手にとっていない人にとって期待を膨らますのかは難しいけれど、分かる人は分かるだろうから少し詳しく。

1.「旦那」はいなくなりましたなあ 白崎秀雄(作家、美術評論家)
2.麹町むかしがたり        大熊善英(建築家)
3.誰も聞いてくれない地震の話 清水幾太郎(社会学者、思想家)
4.テレビのなかのインテリア    向田邦子(脚本家、作家)
5.なんでも描けなきゃ絵かきじゃない 安野光雅(画家)
6.おしん寺子屋火事けんか 小木新造(元江戸東京博物館館長)
7.どっちがエライか住宅とビル   石山修武(建築家)
8.六年牢屋にいれられて      安部譲二(作家)
9.乱歩・東京・2DK       松山巌(作家、評論家)
10.職人になればよかった     安藤忠雄(建築家)
11. 三十五年めの新・韓国事情   関川夏央(作家)
12.広告ほど面白いものはない   天野祐吉(コラムニスト)
13.時代遅れの日本男児      藤原正彦(数学者)
14.何とかならぬかマニュアルの日本語 盛田昭夫(ソニー元取締役社長)
15.本と本でないものを決める人  出久根達郎(作家)
16.ハウスメーカー逆襲す     古河久純(古河林業(株)社長)
17.今どきこんな建築家がいるとは 池部良(俳優、エッセイスト)

 一番面白かったのは、安藤忠雄氏との対談で安藤氏が非常に率直である。
 ・・・ 
 山本 家って暗いものですよ。
 ・・・
 安藤 だから落葉はみんなで拾ったらいいと思うんです。

 最後は、やはり山本夏彦翁の言葉で、古河氏との対談の最後に。
 「けれども目算は必ず齟齬するものです。その時狼狽してはいけません。からからと笑うのです。浮き世のことは笑うよりほかないと笑うのです」。


posted by 工房藤棚 at 22:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | 山本夏彦
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